ダンマパダ1

第1章 ひと組みずつ
第2章 はげみ
第3章 心
第4章 花にちなんで
第5章 愚かな人
第6章 賢い人
第7章 真人
第8章 千という数にちなんで
第9章 悪
第10章 暴力
第11章 老いること
第12章 自
第13章 世の中
第14章 ブッダ
第15章 楽しみ

第一章 ひと組ずつ

1 ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。
もしも、汚れた心で話したり行ったりするならば
苦しみはその人に付き従う
---車をひく(牛)の足跡に車輪がついてゆくように。

2 ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。
もしも清らかな心で話したり行ったりするならば
福楽はその人に付き従う
---影がそのからだから離れないように。

3 「彼はわれを罵った。彼はわれを害した。彼はわれにうち勝った。
彼はわれから強奪した。」という思いを抱く人には
怨みはついに息むことがない。

4 「彼はわれを罵った。彼はわれを害した。彼はわれにうち勝った。
彼はわれから強奪した。」という思いを抱かない人には
ついに怨みが息む。

5 実にこの世においては、怨みに報いるに怨みを以てしたならば
ついに怨みの息むことがない。
怨みを捨ててこそ息む。これは永遠の真理である。

6 「われらは、ここにあって死ぬはずのものである。」と覚悟をしよう
---このことわりを他の人々は知ってはいない。
しかし、このことわりを知る人々があれば、争いは静まる。

7 この世のものを浄らかだと思いなして暮らし
(眼などの)感官を抑制せず、食事の節度を知らず
怠けて勤めない者は、悪魔にうちひしがれる
---弱い樹木が風に倒されるように。

8 この世のものを不浄であると思いなして暮らし
(眼などの)感官をよく抑制し、食事の節度を知り、信念あり
勤めはげむ者は、悪魔にうちひしがれない
---岩山が風にゆるがないように。

9 けがれた汚物を除いていないのに
黄褐色の法衣をまとおうと欲する人は
自制がなく真実もないのであるから
黄褐色の法衣はふさわしくない。

10 けがれた汚物を除いていて、戒律を守ることに専念している人は
自制と真実とをそなえているから、黄褐色の法衣をまとうのにふさわしい。

11 まことではないものを、まことであると見なし
まことであるものを、まことではないと見なす人々は
あやまった思いにとらわれて、ついに真実(まこと)に達しない。

12 まことであるものを、まことであると知り
まことではないものを、まことではないと見なす人は
正しい思いにしたがって、ついに真実に達する。

13 屋根を粗雑に葺いてある家には雨が漏れ入るように
心を修養していないならば、情欲が心に侵入する。

14 屋根をよく葺いてある家には雨の漏れ入ることがないように
心をよく修養してあるならば、情欲の侵入することがない。

15 悪いことをした人は、この世で憂え、来世でも憂え
ふたつのところで共に憂える。
彼は自分の行為が汚れているのを見て、憂え、悩む。

16 善いことをした人は、この世で喜び、来世でも喜び
ふたつのところで共に喜ぶ。
彼は自分の行為が浄らかなのを見て、喜び、楽しむ。

17 悪いことをなす者は、この世で悔いに悩み、来世でも悔いに悩み
ふたつのところで悔いに悩む。
「私は悪いことをしました。」といって悔いに悩み
苦難のところ(地獄など)におもむいて
(罪のむくいを受けて)さらに悩む。

18 善いことをなす者は、この世で歓喜し、来世でも歓喜
ふたつのところで共に歓喜する。
「私は善いことをしました。」といって歓喜
幸あるところ(天の世界)におもむいて、さらに喜ぶ。

19 たとえためになることを数多く語るにしても
それを実行しないならば、その人は怠っているのである
---牛飼いが他人の牛を数えているように
かれは修行者の部類には入らない。

20 たとえためになることを少ししか語らないにしても
理法にしたがって実践し、情欲と怒りと迷妄を捨てて
正しく気をつけていて、心が解脱して
執着することの無い人は、修行者の部類に入る。

第二章 はげみ

21 つとめ励むのは不死の境地である。
怠りなまけるのは死の境涯である。
つとめ励む人々は死ぬことがない。
怠りなまける人々は、死者のごとくである。

22 このことをはっきりと知って、つとめはげみを能(よ)く知る人々は
つとめはげみを喜び、聖者たちの境地を楽しむ。

23 (道に)思いをこらし、堪え忍ぶことつよく
つねに健(たけ)く奮励する、思慮ある人々は、安らぎに達する。
これは無上の幸せである。

24 こころはふるいたち、思いつつましく、行いは清く
気をつけて行動し、みずから制し、法(のり)にしたがって生き
つとめ励む人は、名声が高まる。

25 思慮ある人は、奮い立ち、つとめ励み、自制・克己によって
激流も押し流すことのできない島をつくれ。

26 智慧乏しき愚かな人々は放逸にふける。
しかし心ある人は、最上の財宝(たから)をまもるように
つとめ励むのをまもる。

27 放逸にふけるな。愛欲と歓楽に親しむな。
怠ることなく思念をこらす者は、大いなる楽しみを得る。

28 賢者が精励修行によって怠惰を退けるときには
智慧の高閣(たかどの)に登り
自らは憂い無くして(他の)憂いある愚人どもを見下ろす
____山上にいる人が地上の人々を見下ろすように。

29 怠りなまけている人々の中で、ひとりつとめはげみ
眠っている人々の中で、ひとりよく目覚めている思慮ある人は
疾く走る馬が、足のろの馬を抜いて駆けるようなものである。

30 マガヴァー(インドラ神)は、つとめ励んだので
神々の中での最高の者となった。つとめはげむことを人々はほめたたえる。
放逸なることは常に非難される。

31 勤しむことを楽しみ放逸に恐れをいだく修行僧は
微細なものでも粗大なものでも全て心のわずらいを
焼きつくしながら歩む___燃える火のように。

32 勤しむことを楽しみ、放逸に恐れをいだく修行僧は
堕落するはずはなく、すでにニルヴァーナの近くにいる。

第三章 心

33 心は動揺し、ざわめき、護り難く、制し難い。
英知ある人はこれを直くする
___弓師が矢の弦を直くするように。

34 水の中の住処から引き出されて
陸「おか」の上に投げ捨てられた魚のように
この心は、悪魔の支配から逃れようとしてもがきまわる。

35 心は、捉え難く、軽々(かろがろ)とざわめき
欲するがままにおもむく。
その心をおさめることは善いことである。
心をおさめたならば、安楽をもたらす。

36 心は極めて見難く、極めて微妙であり
欲するがままにおもむく。英知ある人は守れかし。
心を守ったならば、安楽をもたらす。

37 心は遠くに行き、独り動き、形体なく
胸の奥の洞窟にひそんでいる。
この心を制する人々は、死の束縛から逃れるであろう。

38 心が安住することなく、正しい真理を知らず
信念が汚されたならば、さとりの智慧は全うからず。

39 心が煩悩に汚されることなく
おもいが乱れることなく
善悪のはからいを捨てて
目ざめている人には、何も恐れることが無い。

40 この身体は水瓶のように脆いものだと知って
この心を城郭のように(堅固に)安立して
智慧の武器をもって、悪魔と戦え。
勝ち得たものを守れ。
___しかもそれに執着することなく。

41 ああ、この身はまもなく
地上によこたわるであろう。
___意識を失い、無用の木片(きぎれ)のように
投げ捨てられて。

42 憎む人が憎む人にたいし、
怨む人が怨む人にたいして
どのようなことをしようとも、
邪なことをめざしている心は
それよりもひどいことをする。

43 母も父もその他親族がしてくれるよりも
さらに優れたことを、正しく向けられた心がしてくれる。

第四章 花にちなんで

44 だれがこの大地を征服するであろうか?
だれが閻魔の世界と神々とともなるこの世界とを征服するであろうか?
わざに巧みな人が花を摘むように
善く説かれた真理のことばを摘み集めるのはだれであろうか?

45 学びにつとめる人こそ、この大地を征服し
閻魔の世界と神々とともなるこの世界とを征服するであろう。
わざに巧みな人が花を摘むように、学びつとめる人々こそ
善く説かれた真理のことばを摘み集めるであろう。

46 この身は泡沫のごとくであると知り
かげろうのようなはかない本性のものであると、さとったならば
悪魔の花の矢を断ち切って、死王に見られないところへ行くであろう。

47 花を摘むのに夢中になっている人を、死がさらって行くように
眠っている村を、洪水が押し流して行くように____

48 花を摘むのに夢中になっている人が
未だ望みを果たさないうちに、死神が彼を征服する。

49 蜜蜂は(花の)色香を害(そこなわず)に
汁をとって、花から飛び去る。
聖者が村に行くときは、そのようにせよ。

50 他人の過失を見るなかれ。
他人のしたこととしなかったことを見るな。
ただ自分のしたこととしなかったことだけを見よ。

51 うるわしく、あでやかに咲く花でも、香りの無いものがあるように
善く説かれたことばでも、それを実行しない人には実りがない。

52 うるわしく、あでやかに咲く花で
しかも香りのあるものがあるように
善く説かれたことばも、それを実行する人には、実りがある。

53 うず高い花を集めて多くの華鬘(はなかざり)をつくるように
人として生まれまた死ぬべきであるならば、多くの善いことをなせ。

54 花の香りは風に逆らっては進んで行かない。
栴檀(せんだん)もタガラの花もジャスミンもみなそうである。
しかし徳のある人の香りは、風に逆らっても進んで行く。
徳のある人はすべての方向に薫る。

55 栴檀、タガラ、青蓮華、ヴァッシキー
____これら香りのあるものどものうちでも
徳行の香りこそ最上である。

56 タガラ、栴檀の香りは微かであって、大したことはない。
しかし徳行のある人々の香りは最上であって、天の神々にもとどく。

57 徳行を完成し、つとめはげんで生活し
正しい智慧によって解脱した人々には、悪魔も近づくによし無し。

58 大道に捨てられた塵芥(ちりあくた)の山堆(やまずみ)の中から
香しく麗しい蓮華が生ずるように。

59 塵芥にも似た盲(めしい)た凡夫のあいだにあって
正しくめざめた人(ブッダ)の弟子は智慧をもって輝く。

第五章 愚かな人

60 眠れない人には夜は長く、疲れた人には一里の道は遠い。
正しい真理を知らない愚かな者どもには、生死の道のりは長い。

61 旅に出て、もしも自分よりもすぐれた者か
または自分にひとしい者に出会わなかったら
むしろきっぱりと独りで行け。
愚かな者を道伴(づ)れにしてはならぬ。

62 「わたしたちには子がある。わたしには財がある。」と思って
愚かな者は悩む。
しかしすでに自己が自分のものではない。
ましてどうして子が自分のものであろうか。
どうして財が自分のものであろうか。

63 もしも愚者がみずから愚であると考えれば、すなわち賢者である。
愚者でありながら、しかもみずから賢者だと思う者こそ
「愚者」だと言われる。

64 愚かな者は生涯賢者に仕えても、真理を知ることが無い。
匙が汁の味を知ることができないように。

65 聡明な人は瞬時(またたき)のあいだ賢者に仕えても
ただちに真理を知る
___舌が汁の味をただちに知るように。

66 あさはかな愚人どもは、自己に対して
仇敵(かたき)に対するようにふるまう。
悪い行いをして、苦い果実(このみ)をむすぶ。

67 もしも或る行為をした後に、それを後悔して
顔に涙を流して泣きながら、その報いを受けるならば
その行為をしたことは善くない。

68 もしも或る行為をしたのちに、それを後悔しないで
嬉しく喜んで、その報いを受けるならば、その行為をしたことは善い。

69 愚かな者は、悪いことを行っても、その報いの現れないあいだは
それを密のように思いなす。
しかし、その罪の報いの現れたときには、苦悩を受ける。

70 愚かなものは、たとい毎月(苦行者の風習にならって一月に一度だけ)
茅草の端につけて(極く少量の)食べ物を摂るようなことをしても
(その功徳は)真理をわきまえた人々の16分の1にも及ばない。

71 悪事をしても、その業は、しぼり立ての牛乳のように
すぐに固まることはない。
(徐々に固まって熟する)その業は、灰に覆われた火のように
(徐々に)燃えて悩ましながら、愚者につきまとう。

72 愚かな者に念慮(おもい)が生じても
ついにかれには不利なことになってしまう。
その念慮は彼の好運(しあわせ)を滅ぼし、かれの頭を打ち砕く。

73 愚かな者は、実にそぐわぬ虚しい尊敬を得ようと願うであろう。
修行僧らのあいだでは上位を得ようとし
僧房にあっては権勢を得ようとし
他人の家に行っては供養を得ようと願うであろう。

74 「これは、わたしのしたことである。
在家の人々も出家した修行者たちも、ともにこのことを知れよ。
およそなすべきこととなすべからざることとについては、私の意に従え」
___愚かな者はこのように思う。
こうして欲求と高慢(たかぶり)とがたかまる。

75 一つは利得に達する道であり、他の一つは安らぎにいたる道である。
ブッダの弟子である修行僧はこのことわりを知って、栄誉を喜ぶな。
孤独の境地に励め。

第六章 賢い人

76 (おのが)罪過(つみとが)を指し示し過ちを告げてくれる
聡明な人に会ったならば、その賢い人につき従え
___隠してある財宝のありかを告げてくれる人につき従うように。
そのような人につき従うならば、善いことがあり、悪いことは無い。

77 (他人を)訓戒せよ、教えさとせ。
宜しくないことから(他人を)遠ざけよ。
そうすればその人は善人に愛せられ、悪人からは疎まれる。

78 悪い友と交わるな。卑しい人と交わるな。
善い友と交われ。尊い人と交われ。

79 真理を喜ぶ人は、心きよらかに澄んで、安らかに臥す。
聖者の説きたもうた真理を、賢者はつねに楽しむ。

80 水道をつくる人は水をみちびき、矢をつくる人は矢を矯め
大工は木材を矯め、賢者は自己をととのえる。

81 一つの岩の塊りが風に揺るがないように
賢者は非難と賞賛とに動じない。

82 深い湖が、澄んで、清らかであるように
賢者は真理を聞いて、こころ清らかである。

83 高尚な人々は、どこにいても、執着することが無い。
快楽を欲してしゃべることが無い。
楽しいことに遭(あ)っても、賢者は動ずる色がない。

84 自分のためにも、他人のためにも、子を望んではならぬ。
財をも国をも望んではならぬ。
邪なしかたによって自己の繁栄を願うてはならぬ。
(道にかなった)行いあり、明らかな智慧があり、真理にしたがっておれ。

85 人々は多いが、彼岸(かなたのきし)に達する人々は少ない。
他の(多くの)人々はこなたの岸の上でさまよっている。

86 真理が正しく説かれたときに、真理にしたがう人々は
渡りがたい死の領域を超えて、彼岸(かなたのきし)にいたるであろう。

87 賢者は、悪いことがらを捨てて、善いことがらを行え。
家から出て、家の無い生活に入り、楽しみ難いことではあるが
孤独(ひとりい)のうちに、喜びを求めよ。

88 賢者は欲楽をすてて、無一物となり
心の汚れを去って、おのれを浄めよ。

89 覚りのよすがに心を正しくおさめ、執着なく貪りを捨てるのを喜び
煩悩を滅ぼし尽くして輝く人は
現世において全く束縛から解きほごされている。

第七章 真人 

90 すでに(人生の)旅路を終え、憂いをはなれ
あらゆることがらにくつろいで、あらゆる束縛の絆をのがれた人には
悩みは存在しない。

91 こころをとどめている人々は努めはげむ。かれらは住居を楽しまない。
白鳥が立ち去るように、かれらはあの家、この家を捨てる。

92 財を蓄えることなく、食べ物についてその本性を知り
その人々の解脱の境地は空にして無相であるならば
かれらの行く路(足跡)は知り難い
___空飛ぶ鳥の迹の知りがたいように。

93 その人の汚れは消え失せ、食べ物をむさぼらず
その人の解脱の境地は空にして無相であるならば、かれの足跡は知り難い
___空飛ぶ鳥の迹の知り難いように。

94 御者が馬をよく馴らしたように、おのが感官を静め
高ぶりをすて、汚れのなくなった
___このような境地にある人を神々でさえも羨む。

95 大地のように逆らうことなく、門のしまりのように慎み深く
(深い)湖は汚れた泥がないように
___そのような境地にある人には、もはや生死の世は絶たれている。

96 正しい智慧によって解脱して、やすらいに帰した人
___そのような人の心は静かである。
ことばも静かである。行いも静かである。

97 何ものかを信ずることなく、作られざるもの(ニルヴァーナ)を知り
生死の絆を断ち、(善悪をなすに)よしなく、欲求を捨て去った人
___かれこそ実に最上の人である。

98 村にせよ、林にせよ、低地にせよ、平地にせよ
聖者の住む土地は楽しい。

99 人のいない林は楽しい。世人の楽しまないところにおいて
愛著なき人々は楽しむであろう。
かれらは快楽を求めないからである。

第八章 千という数にちなんで

100 無益な語句を千たびかたるよりも
聞いて心の静まる有益な語句を一つ聞くほうがすぐれている。

101 無益な語句よりなる詩が千もあっても
聞いて心の静まる詩を一つ聞くほうがすぐれている。

102 無益に語句よりなる詩を百もとなえるよりも
聞いて心の静まる詩を一つ聞くほうがすぐれている。

103 戦場において百万人に勝つよりも
唯だ一つの自己に克つ者こそ、じつに最上の勝利者である。

104/105 自己にうち克つことは
他の人々に勝つことよりもすぐれている。
つねに行ないをつつしみ、自己をととのえている人
___このような人の克ち得た勝利を敗北に転ずることは
神も、ガンダルヴァ(天の伎楽神)も、悪魔も、梵天もなすことができない。

106 百年のあいだ、月々千回ずつ祭祀を営む人がいて
またその人が自己を修養した人を一瞬間でも供養するならば
その供養することのほうが、百年祭祀を営むよりもすぐれている。

107 功徳を得ようとして、ひとがこの世で一年間
神をまつり犠牲をささげ、あるいは火にささげ物をしても
その全部をあわせても、(真正なる祭りの功徳の)四分の一にも及ばない。
行いの正しい人々を尊ぶことのほうがすぐれている。

108 つねに敬礼を守り、年長者を敬う人には
四種のことがらが増大する
___すなわち、寿命と美しさと楽しみと力とである。

109 素行が悪く、心が乱れていて百年生きるよりは
徳行あり思い静かな人が一日生きるほうがすぐれている。

110 愚かに迷い、心の乱れている人が百年生きるよりは
智慧あり思い静かな人が一日生きるほうがすぐれている。

111 怠りなまけて、気力もなく百年生きるよりは
堅固につとめ励んで一日生きるほうがすぐれている。

112 事物が興りまた消え失せることわりを見ないで百年生きるよりも
事物が興りまた消え失せることわりを見て
一日生きることのほうがすぐれている。

113 不死(しなない)の境地を見ないで百年生きるよりも
不死の境地を見て一日生きることのほうがすぐれている。

114 最上の真理を見ないで百年生きるよりも
最上の真理を見て一日生きるほうがすぐれている。

第九章 悪

116 善をなすのを急げ。悪から心を遠ざけよ。
善をなすのにのろのろしたら、心は悪事を楽しむ。

117 人がもしも悪いことをしたならば、それを繰り返すな。
悪事を心がけるな。悪が積み重なるのは苦しみである。

118 人がもし善いことをしたならば、それを繰り返せ。
善いことを心掛けよ。善いことが積み重なるのは楽しみである。

119 まだ悪の報いが熟しないあいだは、悪人でも幸運に遭うことがある。
しかし悪の報いが熟したときには、悪人はわざわいに遭う。

120 まだ善い報いが熟しないあいだは
善人でもわざわいに遭うことがある。
しかし善の果報が熟したときには、善人は幸福(さいわい)に遭う。

121 「その報いは私には来ないだろう」とおもって、悪を軽んずるな。
水が一滴ずつ滴りおちるならば、水瓶でも満たされるのである。
愚かな者は、水を少しずつでも集めるように悪を積むならば
やがてわざわいに満たされる。

122 「その報いは私には来ないであろう」とおもって、善を軽んずるな。
水が一滴ずつ滴りおちるならば、水瓶でも満たされる。
気をつけている人は、水を少しずつでも集めるように善を積むならば
やがて福徳に満たされる。

123 生きたいと願う人が毒を避けるように、人はもろもろの悪を避けよ。

124 もしも手に傷がなければ
その人は手で毒をとり去ることもできるであろう。
傷の無い人に、毒は及ばない。悪をなさない人には、悪の及ぶことがない。

125 汚れの無い人、清くて咎のない人をそこなう者がいるならば
そのわざわいは、かえってその浅はかな人に至る。
風にさからって細かい塵を投げると、(その人にもどって来る)ように。

126 或る人々は[人の]胎に宿り、悪をなした者どもは地獄に墜ち
行いの良い人々は天におもむき、汚れの無い人々は全き安らぎに入る。

127  大空の中にいても、大海の中にいても
山の中の奥深いところに入っても、およそ世界のどこにいても
悪業から脱れることのできる場所は無い。

128 大空の中にいても、大海の中にいても、山の中の洞窟に入っても
およそ世界のどこにいても、死の脅威のない場所は無い。

第十章 暴力

129 すべての者は暴力におびえ、すべての者は死をおそれる。
已が身をひきくらべて、殺してはならぬ。殺させてはならぬ。

130 すべての者は暴力におびえ
すべての(生きもの)にとって生命は愛しい。
已が身にひきくらべて、殺してはならぬ。殺させてはならぬ。

131 生きとし生ける者は幸せをもとめている。
もしも暴力によって生きものを害するならば
その人は自分の幸せをもとめていても、死後には幸せが得られない。

132 生きとし生ける者は幸せをもとめている。
もしも暴力によって生きものを害しないならば
その人は自分の幸せをもとめているが、死後には幸せが得られる。

133 荒々しいことばを言うな。言われた人々は汝に言い返すであろう。
怒りを含んだことばは苦痛である。報復が汝の身に至るであろう。

134 こわれた鐘のように、声をあらげないならば
汝は安らぎに達している。汝はもはや怒り罵ることがないからである。

135 牛飼いが棒をもって牛どもを牧場に駆り立てるように
老いと死とは生きとし生けるものどもの寿命を駆り立てる。

136 しかし愚かな者は、悪い行ないをしておきながら、気がつかない。
浅はかな愚者は自分自身のしたことによって悩まされる
___火に焼きこがれた人のように。

137-140− 手むかうことなく罪咎の無い人々に害を加えるならば
次に挙げる十種の場合のうちのどれかに速やかに出会うであろう
___(1)激しい痛み、(2)老衰、(3)身体の傷害、(4)重い病い、(5)乱心
(6)国王からの災い、(7)恐ろしい告げ口、(8)親族の滅亡と
(9)財産の損失と、(10)その人の家を火が焼く。
この愚かな者は、身やぶれてのちに、地獄に生まれる。

141 裸の行も、髻を結うのも、身が泥にまみれるのも、断食も
露地に臥すのも、塵や泥を身に塗るのも、蹲って動かないのも
___疑いを離れていない人を浄めることはできない。

142  身の装いはどうあろうとも、行い静かに、心おさまり
身をととのえて、慎みぶかく、行い正しく
生きとし生けるものに対して暴力を用いない人こそ、<バラモン>とも
<道の人>とも、また<托鉢遍歴僧>ともいうべきである。

143 みずから恥じて自己を制し、良い馬が鞭を気にかけないように
世の非難を気にかけない人が、この世に誰か居るだろうか? 

144 鞭をあてられた良い馬のように勢いよく努め励めよ。
信仰により、戒しめにより、はげみにより、精神統一により
真理を確かに知ることにより、智慧と行いを完成した人々は
思念をこらし、この少なからぬ苦しみを除けよ。

145 水道をつくる人は水をみちびき、矢をつくる人は矢を矯め
大工は木材を矯め、慎しみ深い人々は自己をととのえる。

第十一章 老いること

146 何の笑いがあろうか。何の歓びがあろうか?
___世間は常に燃え立っているのに。
___汝らは暗黒に覆われている。
どうして燈明を求めないのか?

147 見よ、粉飾された形体を。(それは)傷だらけの身体であって
いろいろのものが集まっただけである。
病いに悩み、意欲ばかり多くて、堅固でなく、安住していない。

148 この容色は衰えはてた。病いの巣であり、脆くも滅びる。
腐敗のかたまりで、やぶれてしまう。生命は死に帰着する。

149  秋に投げすてられた瓢箪のような
鳩の色のようなこの白い骨を見ては、なんの快さがあろうか?

150  骨で城がつくられ、それに肉と血とが塗ってあり
老いと死と高ぶりとごまかしとがおさめられている。

151  いとも麗しい国王の車も朽ちてしまう。身体もまた老いに近づく。
しかし善い立派な人々の徳は老いることがない。
善い立派な人々は互いにことわりを説き聞かせる。

152  学ぶことの少ない人は、牛のように老いる。かれの智慧は増えない。

153 わたくしは幾多の生涯にわたって
生死の流れを無益に経めぐって来た
___家屋の作者(つくりて)をさがしもとめて___。
あの生涯、この生涯とくりかえすのは苦しいことである。

154  家屋の作者よ。汝の正体は見られてしまった。
汝はもはや家屋を作ることはないであろう。
汝の梁はすべて折れ、家の屋根は壊れてしまった。
心は形成作用を離れて、妄執を滅ぼし尽くした。

155  若い時に、財を獲ることなく、清らかな行ないをまもらないならば
魚のいなくなった池にいる白鷺のように、痩せて滅びてしまう。

156  若い時に、財を獲ることなく、清らかな行ないをまもらないならば
壊れた弓のようによこたわる
___昔のことばかり思い出してかこちながら。

第十二章 自己

157  もしもひとが自己を愛しいものと知るならば、自己をよく守れ。
賢い人は、夜の三つの区分のうちの一つだけでも、慎んで目ざめておれ。

158  先ず自分を正しくととのえ、次いで他人を教えよ。
そうすれば賢明な人は、煩わされて悩むひとが無いであろう。

159  他人に教えるとおりに、自分で行なえ___。
自分をよくととのえた人こそ、他人をととのええるであろう。
自己は実に制し難い。

160  自己こそ自分の主である。他人がどうして(自分の)主であろうか? 
自己をよくととのえたならば、得難き主を得る。

161  自分がつくり、自分から生じ、自分から起った智慧
智慧悪しき人を打ちくだく___金剛石が宝石を打ちくだくように。

162  極めて性の悪い人は、仇敵がかれの不幸を望むとおりのことを
自分に対してなす___蔓草(つるくさ)が沙羅の木にまといつくように。

163  善からぬこと、己れのためにならぬことは、なし易い。
ためになること、善いことは、実に極めてなし難い。

164  愚かにも、悪い見解にもとづいて
真理に従って生きる真人・聖者たちの教えを罵るならば
その人は悪い報いが熟する___カッタカという草は
果実が熟すると自分自身が滅びてしまうように。

165  みずから悪をなすならば、みずから汚れ
みずから悪をなさないならば、みずから浄まる。
浄いのも浄くないのも、各自のことがらである。
人は他人を浄めることができない。

166  たとい他人にとっていかに大事であろうとも
(自分ではない)他人の目的のために自分のつとめをすて去ってはならぬ。
自分の目的を熟知して、自分のつとめに専念せよ。

第十三章 世の中

167  下劣なしかたになじむな。怠けてふわふわと暮らすな。
邪な見解をいだくな。世俗のわずらいをふやすな。

168  奮起せよ。怠けてはならぬ。善い行いのことわりを実行せよ。
ことわりに従って行なう人は、この世でも、あの世でも、安楽に臥す。

169  善い行ないのことわりを実行せよ。
悪い行いのことわりを実行するな。
ことわりに従って行なう人は、この世でも、あの世でも、安楽に臥す。

170  世の中は泡沫のごとしと見よ。世の中はかげろうのごとしと見よ。
世の中をこのように観ずる人は、死王もかれを見ることがない。

171  さあ、この世の中を見よ。王者の車のように美麗である。
愚者はそこに耽溺するが、心ある人はそれに執著しない。

172  また以前は怠りなまけていた人でも
のちに怠りなまけることが無いなら、その人はこの世の中を照らす
___あたかも雲を離れた月のように。

173  以前には悪い行いをした人でも、のちに善によってつぐなうならば
その人はこの世の中を照らす___雲を離れた月のように。

174  この世の中は暗黒である。
ここではっきりと(ことわりを)見分ける人は少ない。
網から離れた鳥のように、天に至る人は少ない。

175  白鳥は太陽の道を行き、神通力による者は虚空(そら)を行き
心ある人々は、悪魔とその軍勢にうち勝って世界から連れ去られる。

176  唯一なることわりを逸脱し、偽りを語り
彼岸の世界を無視している人は、どんな悪でもなさないものは無い。

177  物惜しみする人々は天の神々の世界におもむかない。
愚かな人々は分かちあうことをたたえない。
しかし心ある人は分かちあうことを喜んで、その故に来世には幸せとなる。

178  大地の唯一の支配者となるよりも、全世界の主権者となるよりも
聖者の第一階梯(かいてい)(預流果)のほうがすぐれている。

第十四章 ブッダ

179  ブッダの勝利は敗れることがない。
この世においては何人も、かれの勝利には達しえない。
ブッダの境地はひろくて涯しがない。
足跡をもたないかれを、いかなる道によって誘い得るであろうか?

180 誘うために網のようにからみつき執著をなす妄執は
かれにはどこにも存在しない。ブッダの境地は、ひろくて涯しがない。
足跡をもたないかれを、いかなる道によって誘い得るであろうか?

181  正しいさとりを開き、念いに耽り
瞑想に専中している心ある人々は世間から離れた静けさを楽しむ。
神々でさえもかれを羨む。

182 人間の身を受けることは難しい。
死すべき人々に寿命があるのも難しい。正しい教えを聞くのも難しい。
もろもろのみ仏の出現したもうことも難しい。

183  すべて悪しきことをなさず、善いことを行ない
自己の心を浄めること___これが諸の仏の教えである。

184 忍耐・堪忍は最上の苦行である。
ニルヴァーナは最高のものであると、もろもろブッダは説きたもう。
他人を害する人は出家者ではない。他人を悩ます人は<道の人>ではない。

185  罵らず、害わず、戒律に関しておのれを守り
食事に関して(適当な)量を知り、淋しいところにひとり臥し、坐し
心に関することにつとめはげむ___これが諸々のブッダの教えである。

186 たとえ貨幣の雨を降らすとも、欲望の満足されることはない。
「快楽の味は短くて苦痛である」としるのが賢者である。

187  天上の快楽にさえもこころ楽しまない。
正しく覚った人(仏)の弟子は妄執の消滅を楽しむ。

188  人々は恐怖にかられて、山々、林、園、樹木、霊樹など
多くのものにたよろうとする。

189  しかしこれは安らかなよりどころではない。
これは最上のよりどころではない。それらのよりどころによっては
あらゆる苦悩から免れることはできない。

190/191 さとれる者(仏)と真理のことわり(法)と聖者の集い(僧)とに
帰依する人は、正しい知慧をもって、四つの尊い真理を見る。___
すなわち(1)苦しみと、(2)苦しみの成り立ちと、(3)苦しみの超克と
(4)苦しみの終減におもむく八つの尊い道(八正道)とを(見る)。

192  これは安らかなよりどころである。これは最上のよりどころである。
このよりどころにたよってあらゆる苦悩から免れる。

193  尊い人(ブッダ)は得がたい。かれはどこにでも生れるのではない。
思慮深い人(ブッダ)の生れる家は、幸福に栄える。

194  もろもろの仏の現われたもうのは楽しい。
正しい教えを説くのは楽しい。つどいが和合しているのは楽しい。
和合している人々がいそしむのは楽しい。

195/196  すでに虚妄な論議をのりこえ、憂いと苦しみをわたり
何ものをも恐れず、安らぎに帰した、拝むにふさわしいそのような人々
もろもろのブッダまたその弟子たちを供養するならば
この功徳はいかなる人でもそれを計ることができない。

第十五章 楽しみ 

197  怨みをいだいている人々のあいだにあって怨むこと無く
われらは大いに楽しく生きよう。
怨みをもっている人々のあいだにあって怨むこと無く
われらは暮らしていこう。

198  悩める人々のあいだにあって、悩み無く、大いに楽しく生きよう。
悩める人々のあいだにあって、悩み無く暮そう。

199  貪っている人々のあいだにあって、患い無く
大いに楽しく生きよう。
貪っている人々のあいだにあって、むさぼらないで暮らそう。

200  われわれは一物をも所有していない。大いに楽しく生きて行こう。
光り輝く神々のように、喜びを食(は)む者となろう。

201  勝利からは怨みが起る。敗れた人は苦しんで臥す。
勝敗をすてて、やすらぎに帰した人は、安らかに臥す。

202  愛欲にひとしい火は存在しない。
博打に負けるとしても、増悪にひとしい不運は存在しない。
このかりそめの身に等しい苦しみは存在しない。
安らぎに優る楽しみは存在しない。

203  飢えは最大の病いであり
形成せられる存在(わが身)は最もひどい苦しみである。
このことわりをあるがままに知ったならば
ニルヴァーナという最上の楽しみがある。

204  健康は最高の利得であり、満足は最上の宝であり
信頼は最高の知己であり、ニルヴァーナは最上の楽しみである。

205  孤独(ひとりい)の味、心の安らぎの味をあじわったならば
恐れも無く、罪過も無くなる___真理の味をあじわいながら。

206 もろもろの聖者に会うのは善いことである。
かれらと共に住むのはつねに楽しい。
愚かなる者どもに会わないならば、心はつねに楽しいであろう。

207  愚人とともに歩む人は長い道のりにわたって憂いがある。
愚人と共に住むのは、つねにつらいことである
___仇敵とともに住むように。
心ある人と共に住むのは楽しい___親族に出会うように。

208  よく気をつけていて、明らかに智慧あり、学ぶところ多く
忍耐づよく、戒めをまもる、そのような立派な聖者・善き人
英知ある人に親しめよ___月がもろもろの星の進む道にしたがうように。


第十六章 愛するもの